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認知症ケアを考える

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体験談

私にはこんな体験がある
桜の花見にとても良い季節?七十代で、脳こうそくの後遺症で軽い認知症があるDさんが、介護サービスを使い始めて間もないころでした。「どうですか桜のお花見に行きませんか」と声を掛けたのですが気乗りしない様子。「暖かい日差しの中で見る桜はとっても良いですよ。さあ行きましょう!」それでも行きません。
しかし、夜になり「さあ、夜桜に行こう」と言い出しました。「夜は寒いですから。喘息があるから夜桜はやめましょう」と看護師と一緒に説得しますが、Dさんはどうしても夜桜を見に行くと言って耳を貸してくれません。私たちも困り果て、つい「だから昼間行こうって言ったじゃないですか」思わず叱るような口調で言ってしまった。Dさんは渋々お部屋に戻っていきました。

数日後、桜が散り始めた並木道をDさんとお散歩をしていた時です。「妻が元気だった頃、毎年二人で夜桜を見ていた。先に逝ってしまった妻との約束で、私が一人になっても妻を偲びながら夜桜を観続ける事を約束したんだ」。私たちは何てことをしてしまったのだろう。後悔とやるせなさで涙が溢れてきました。
私たちは、いつも安全や安心を考えてケアに臨みます。でもその安心や安全は誰にとってのものだったのか。私たち介護する側にとってだとしたら、Dさんの想いは実現できないことになってしまう。その反面、Dさんの想いばかりに気を奪われていると、生命を軽んじてしまいかねない。

それ以来私は、一旦決めたケア方針は、これで良かったのかと振り返る事が多くなりました。本人の想いを中心において、専門職として他職種間でしっかり話し合えたかが大切だと思います。
その後Dさんは夜桜を観に行ったのか。答えは内証です。どうなったかは考えてみて下さい。認知症介護には「こうすればいい」という正しい答えはありません。そして介護について当事者になるまで考えたくないもの、そして考えられないものです。どうぞ、ご家族でDさんはどうなったのか。そして私だったら・・・。と話し合ってみて下さい。「悩みは私を強くして、いろいろ考えるきっかけを与えてくれる。Dさんに感謝ですね」。当時を振り返りつぶやく私がいます。

 

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